非浸潤がんと浸潤がん
がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているものを「非浸潤がん」、これらを包む膜を破って外に出たものを「浸潤がん」といいます。発生初期はほとんど症状がありませんが、成長(増殖)して乳管を破る(浸潤)ことで周囲の血管やリンパ管に乗って全身に運ばれます。さらに増殖すると他の臓器に運ばれ、そこで新しい病巣をつくります。それが「転移」です。他の臓器に転移すると完治させることは不可能と考えられています。
About breast cancer
乳がんを発症する女性は年々増加傾向で、年間9万人を超える日本人女性が新たに乳がんと診断されています。日本人の女性の中で最も多い「がん」であり、2022年の統計では9人に1人が乳がんになると推定されています。年齢別にみると、30代後半から徐々に増えていって40代後半-60代にかけて多い時期が続きますが、70歳を過ぎてもそれほど少なくはなりません。
また、乳がんで亡くなる女性は年間で14,000人を超え、35年前に比べて3倍以上になっています。全体では大腸がんが最多ですが、30歳~64歳の女性では、乳がんが死亡原因のトップであり、今後も増えていくことが予想されています。
乳房は乳腺組織と脂肪組織からなり、乳腺組織は母乳を作る「小葉」と、作られた母乳を運ぶ「乳管」に分かれています。多くの乳がんは乳管表面の細胞(乳管上皮細胞)から発生します。
がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているものを「非浸潤がん」、これらを包む膜を破って外に出たものを「浸潤がん」といいます。発生初期はほとんど症状がありませんが、成長(増殖)して乳管を破る(浸潤)ことで周囲の血管やリンパ管に乗って全身に運ばれます。さらに増殖すると他の臓器に運ばれ、そこで新しい病巣をつくります。それが「転移」です。他の臓器に転移すると完治させることは不可能と考えられています。
がんの進行状態を表すのに病期分類というのがあります。病期は、T:しこりの大きさ(浸潤径)、N:リンパ節の転移、M:乳房以外の臓器への転移、の3つの条件によって決まり、それぞれの病期により、おおよその現段階での見通し(予後)と治療方針が決まってきます。
乳がんはⅠ期なら5年生存率が9割と早期発見・治療をすれば治りやすい病気です。ただし、進行すればするほど転移のリスクは高くなり、生存率は下がります。
早期の乳がんは自覚症状が乏しいのですが、進行すると症状が現れはじめます。乳がん発見のきっかけとして最も多いのは「しこり」です。それ以外の症状が現れることもありますので、しこりを含めて乳房や乳輪、乳首にちょっとした異変を感じたら、できるだけ早く受診することが乳がんの早期発見につながります。
乳がんの症状として広く知られている症状です。他の疾患でも乳腺のしこりが現れることはありますが、乳がんのしこりは比較的硬く、動きにくい傾向があります。乳腺のしこりの約90%は良性とされていますが見極めることは難しいため、しこりを発見したら自己判断せずに必ず専門医を受診してください。
乳がんが疑われる症状として、乳頭や乳輪に湿疹やただれが起こることがあります。
血が混じっているような(黒い、赤い)分泌物が乳頭から出る場合も、乳がんの疑いがあります。
がんが皮膚の下に根を張って乳房の皮膚にえくぼのようなへこみができることもあります。また、乳房の皮膚に赤み、腫れ、熱感、痛みなどの症状を起こすこともあります。
乳がんが脇の下のリンパ節に転移した場合、脇の下に腫れやしこり、しびれなどを起こすこともあります。
発生・進行ともに、女性ホルモン(エストロゲン)が関与していることが多いのが乳がんの特徴です。初潮が早い、閉経が遅い、初産年齢が遅い、高齢での出産など、エストロゲンにさらされる期間が長いほど乳がんにかかりやすくなります。
また、閉経後は脂肪組織でエストロゲンがつくられるため、閉経後の肥満も乳がんのリスクとなります。また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)という、遺伝的に乳がんや卵巣がんのリスクが高い家系の方が日本でも存在することが知られています。この疑いのある方は、30歳代からの乳がんの発症が多いとも言われ、専門的な知識を持った医師の受診が勧められています。
初期の乳がんはほとんどが無症状のため、日頃から自分の乳房の状態に関心を持ち、変化を感じたら速やかに医療機関を受診することが大切です。この考え方は、Breast awareness(ブレスト・アウェアネス)と呼ばれ、米国を含む欧米で広く普及しています。ブレスト・アウェアネスの一部分であるセルフチェックは自分で乳房を触ってしこりなどの異常がないかを確かめるものです。セルフチェックを毎月の習慣にすることで、小さなしこりや乳房のちょっとした変化にも気付くことができるようになります。
次の検診までの間に異常が乳房に起こってもセルフチェックをしていれば気付くことができます。検診とセルフチェックはどちらか片方だけでなく、両方を行っていくことで効果的な乳がんの早期発見につながります。
生理開始後10日ごろ、乳房の張りが少ないタイミングでセルフチェックを行うようにしてください。なお、閉経している場合には、日を決めて毎月行うようにします。
鏡の前に立って、乳房や乳首の大きさや形の左右差、表面のえくぼ・でっぱり・引きつれ・変色の有無、赤みや腫れなどの異常がないかを確かめます。
ボディソープなどが付いた状態でセルフチェックすると指のすべりがよく、小さなしこりを発見しやすいと言われています。
セルフチェックは反対の手で行います。たとえば右乳房をチェックする時には、左手で行います。基本は親指以外の指をそろえて、4本の指の腹全体で触っていく感じで行ってください。指でつまむとしこりがあるように錯覚しやすい傾向がありますので、すべらせることを心がけてください。